転んだのは、ほんの一瞬のことだった
買い物帰りの夕方。濡れたアスファルトに足を滑らせ、咄嗟に手を出した——それが全ての始まりだった。
激しい痛みとともに、右手首は見るからに変形していた。救急外来で告げられたのは「コーレス骨折」。手首の骨、正確には橈骨遠位端骨折だ。
「高齢者がよくやる骨折ですよ」と医師は言ったが、まだ50代の私にとって、その一言が妙に突き刺さった。
固定の6週間は、もどかしさとの闘い
手首はギプスでガッチリ固定された。痛みは鎮痛薬で抑えられたものの、何よりつらかったのは「動かせない」こと。
自分の右手が、ただぶら下がっているだけの存在になる。
でもこの時期が、実は最も大事な時期だと後から知る。
整形外科の理学療法士さんが教えてくれた。
「この期間中に、指や肩は積極的に動かしましょう。患部以外を動かすことで、血流を保ち、浮腫(むくみ)を防ぎます」
指をグーパーと動かしながら、今まで当たり前に使っていた手が、どれだけ大事だったかを噛みしめていた。
固定が外れたその日から、”リハビリ地獄”が始まった
6週間後、ようやくギプスが外れた。
でも、安心したのも束の間だった。手首が……全然動かない。
「手首を曲げてみてください」と言われても、ほんの数ミリしか動かせない。
これはショックだった。
橈屈・尺屈、背屈・掌屈、回内・回外——。
聞き慣れない言葉を次々と耳にしながら、関節の可動域訓練が始まった。
痛い。でもやらないと、一生そのままだと言われた。
一日数ミリの「回復」を感じる日々
「この動きが戻らないと、箸も使いにくいです」
「ここが固まると、タイピングも辛いです」
理学療法士さんは、毎回“生活の中でどれが困るか”を教えてくれた。
日常動作(ADL)って、こんなに手首の機能に依存してたのか。
自宅では、柔らかいゴムボールを握るリハビリも継続した。
はじめは握力も10kgを切っていたが、徐々に戻ってくる。
3ヶ月後、普通の生活ができるありがたさ
骨折から約3ヶ月。ようやく包丁を使って料理ができた。
パソコンも、違和感なくキーボードを打てるようになっていた。
握力も20kgを超え、リハビリは卒業。
けれど、あの3ヶ月で私の価値観は大きく変わった。
「手を使える」ことは、生きることに直結している。
骨折は、ただのケガではない。身体機能の”根幹”を問う経験だった。
最後に:もし手をついて転んだら
転倒したとき、手をつくのは本能。でも、その代償は小さくない。
もしこの記事を読んでいるあなたが、
「転倒したけど大丈夫だったかも」と思っていたら——。
迷わず整形外科を受診してください。
手首の骨折は早期発見・早期リハビリが命です。
ウナギ整骨院では骨折のリハビリもやっています